一般財団法人森記念財団都市戦略研究所(所長:竹中平蔵)が2008年より調査・発表している、「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index, GPCI)」の2021年版の結果がまとまりました。今回は、2020年初頭より始まったコロナ禍が世界の主要都市に及ぼした様々な影響が明らかになっています。
世界的な人流抑制によって苦戦を強いられた首位ロンドンと5位シンガポール、居住分野でスコアが大きく下落した2位ニューヨーク、就業環境が改善した3位東京、4分野で順位を上げて勢いづく4位パリ
総合ランキングは、6年連続で1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位東京、4位パリ、5位シンガポールとなったが、GPCI-2018以降スコアを伸ばしていた1位ロンドンと2位ニューヨークの勢いが止まり、3位東京と4位パリが追い上げを見せた。
【ロンドン】
総合ランキングは1位を維持したが、コロナ禍の影響を大きく受けて「国内・国際線旅客数」のスコアが下落し「交通・アクセス」で1位から3位へと順位を落とした。「経済」でも「従業者数」の減少などによりスコアを落とした。一方、他のヨーロッパ諸都市は「経済」のスコアを伸ばし、ロンドンを追い上げる動きが見えている。2020年1月31日のEU離脱の影響が出始めているものと思われ、今後どのようにして都市力を高めていけるのかが問われている。
【ニューヨーク】
5年連続で首位を維持している「経済」「研究・開発」でスコアを伸ばしたが、ロンドン同様にコロナ禍の影響を受けて「交通・アクセス」で苦戦した。また、「居住」では7つ順位を落として40位という結果であった。「完全失業率の低さ」や「働き方の柔軟性」などの就業環境の指標の下落も顕著であり、様々な課題が浮き彫りとなった。
【東京】
「働き方の柔軟性」(41位→2位)が大きく改善されたことにより、「居住」で12位から9位まで順位を伸ばした。これにより、「環境」を除く5分野でトップ10入りを果たした。一方、昨年から順位を落とした「ICT環境の充実度」(29位)が「居住」分野でさらに上位を目指すための課題である。「経済」では4位を維持するも、3位北京との差は広がり、5位香港と6位チューリッヒとのスコア差は僅差となっている。
【パリ】
今年最も躍進した都市の1つ。「経済」の「1人あたりGDP」が3位に、「文化・交流」の「観光地の充実度」が2位に、「居住」の「小売店舗の多さ」が1位に上がったことにより、「経済」(13位)、「研究・開発」(9位)、「文化・交流」(2位)、「居住」(2位)の4分野で順位を上げた。サステナブルな大会を目指すパリ五輪に向けて、「環境」(29位)のさらなる向上に期待がかかる。
【シンガポール】
他都市と比較してコロナ禍の影響が色濃く、「文化・交流」の「外国人訪問者数」や、「交通・アクセス」の「国内・国際線旅客数」のスコアが半減した。一方、「環境」の「空気のきれいさ」などは改善した。
コロナ禍によって大きく変動した指標群
GPCI-2021では、コロナ禍によって複数の指標のスコアが大きく変動し、それらが各分野における順位や総合力ランキングの結果に影響を及ぼすこととなった。こうした影響には、全ての都市において一律に見られるものもあれば、都市によって異なる変化を及ぼすものもあった。
コロナ禍の影響を受けた指標を、「国際人流」、「企業活動」、「働き方」、「都市環境」の4つのグループに分けて、それぞれにおいて昨年からのスコア増減を見ることによって、各都市がどの程度コロナ禍の影響を受けたのかについて次項で示した。
コロナ禍が及ぼした総合スコアへの影響度合い
東京やマドリードは総合スコアに対するプラスの影響が大きく、特に「総労働時間の短さ」や「働き方の柔軟性」のスコアの伸びが寄与している。また、東京の国際人流がプラスとなったのは、東京オリンピックによって「文化イベント開催件数」のスコアが大きく増加したことによる。
一方、ロンドン、シンガポール、香港では、世界的な人流抑制によるマイナスの影響が他の都市と比べても極めて大きい。これらの都市の調査対象空港では、航空便の多くを国際線が占めていたことで、「国内・国際線旅客数」のスコアが大きく減少した。ニューヨークも総合スコアに対するマイナスの影響が大きいが、その要因は完全失業率にある。2019年から2020年にかけてアメリカ6都市の失業率が上がり、中でもニューヨークが最も高い上昇を見せたことが影響している。
【国際人流】
「交通・アクセス」における「国内・国際線旅客数」では、2020年の年間旅客数データを用いているが、前年と比べて全ての都市で旅客の減少がみられた。特に、ロンドン、パリ、シンガポールなど、国際線旅客が大半を占める都市で大幅にスコアダウンした。一方、中国や日本などは2020年中に国内旅行を促しており、一定の国内線需要があったことが旅客数の下支えとなった。同分野の「航空機の発着回数」や、「文化・交流」における「外国人訪問者数」も同様に世界的な人流抑制の影響を受けて全都市で減少がみられた。コロナ禍が収束に向かう中で、各国とも国内線については旅客が戻りつつあるが、2020年5月のIATA(国際航空運送協会)の予測では、コロナ禍前の水準に需要が回復するのは国内線で2022年、国際線は2024年であった。世界の都市間での人の移動が2019年の水準に戻るには、あと2年程度はかかりそうである。
【企業活動】
「経済」の「世界トップ500企業」では、各都市に立地する企業の2020年の総売上高に応じてスコア付けしているが、対象の273企業のうち110企業の売上が前年から減少し、半数以上の都市でスコアの下落が見られた。業界別にみると、世界的な需要減となった石油精製・原油生産業、対面営業の停止に苦しんだ銀行・保険業界は売上が下がり、そうした企業の割合が多いロンドン、パリ、ニューヨークはスコアを下げた。東京も、操業停止による供給減で売上を落とした自動車生産業などが影響してスコアを落とした。一方、建設・不動産・医薬品など多業種で成長を見せた北京、上海、香港と、業績が好調のコンピューター・電子機器業界が7割を占める台北ではスコア上昇がみられた。
【働き方】
「居住」における「働き方の柔軟性」では、全48都市中39都市において昨年からスコアが上がった。特にジュネーブ(昨年26位、今年1位)と東京(昨年41位、今年2位)は大きく躍進した。一方で、上海(昨年1位、今年3位)やニューヨーク(昨年7位、今年15位)など、昨年の上位都市がスコアを落とす動きもみられた。
働き方の柔軟性と通勤頻度を比較すると、ジュネーブやロンドンのように通勤頻度が下がったことによって「働き方の柔軟性」のスコアが上がった都市と、ニューヨークのように「働き方の柔軟性」が下がる都市の両方がみられた。
東京は、「働き方の柔軟性」のスコアは大きく向上しているが、通勤頻度に大きな変化はなかった。一方で、コワーキング施設数の増加によって「ワークプレイス充実度」のスコアが向上しており、直接的な相関関係までは明らかではないが、多様な働き方ができるよう環境整備が進んでいる都市へと変貌を続けていると考えられる。